マリア様がみている@今野緒雪
最近、僅か1クールの深夜TVアニメが終了した作品で、原作小説シリーズは集英社コバルト文庫から現在刊行中で、2004-03/31に最新刊『チャオ ソレッラ!』がでたばかりです。(購入してみるなら…)
コバルト文庫といえば少女向けであるにも拘らず、少なくない男性ファンをも得ているこのシリーズの魅力はなんでしょう? オーソドックスな事は他の方が散々語っていますので、ちょっと変った見方をしてみましょう。
舞台はカトリック系の私立女子校で、幼稚園児から大学生までを抱える、社会に出る前の児童がここだけで学生時代を完結することもできる大所帯の学校。外部から中途編入しようとすれば、中々レベルの高い学校ですが、中ではエスカレーター式で受験戦争とは概ね無縁。元は華族の為の教育機関で、純粋培養のお嬢様を出荷し続ける花園らしい。
…とここまではよくある話。変わっているのは、この作品の学園の生徒たちは、赤子や天使の様に邪気がないこと。勘違いや思惑のスレ違いはあるものの、基本的には人を思いやり見返りを意識しない好意に溢れる娘達しかいない。そこには現実の生々しさがなく、他人を怨み妬んで意識して奪い損なわせ傷つけようとする者はいません。殺伐さの影はなく、常春のような心地よさに溢れ、ヒロインたちは形だけでなく心からの微笑を浮かべています。僅かな行き違いに自責から悩むことはあっても、相手をなじることはない。
非現実的だと思いながらも、子宮のような居心地の良さが、ドロドロとした現実を束の間忘れさせてくれる。そんなところも魅力の一つではないでしょうか?
今ひとつの特色である姉妹(スール)制度は何でしょう?
高等部の上級生と下級生の間で、一対一で結ばれる擬似姉妹。男女の結婚指輪の交換のように姉から妹へ十字架を渡されることで誓約されるそれは、親を介せず自分たち自身だけで互を選ぶ擬似家族(姉妹)でもあり、同性と結ぶ婚姻でもあります。しかも長くて2年間という期限付。確たる終りを示され、それを前提としての関係であることもあり、より濃く密接です。かといって性愛的なモノはなく、ある意味、身近にいる血肉を持つ者への信仰に近い物が感じられる気がします。大姉たる生徒会の役員も、薔薇様方と冠され一人の長を定めず合議制。正式な三人をその妹や更にその妹が支える、スールの理想的な象徴として、全校生徒から崇められ聖域化しているところもあります。
この作品世界の特徴は、世俗の葛藤や肉愛への苦しみではなく、昇華する信仰にも似た互いへの純粋な愛ではないだろうか? メインヒロインには、読者の感情移入がしやすい極めて平凡な等身大のキャラクターを据えてはいますが、その彼女もまた俗世の翳りとは無縁で、嬰児のような純粋なその世界の住人であることには変わりない。
皆が純粋で直向きなその物語は、ある意味、転寝したくなる暖かく柔らかい布団のようだが…
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